上質人生大学

特別講座レポート

2005年11月その壱
能って知ってるKNOW?~能へのいざない~
松岡  晴夫先生

 

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  皆さん、こんにちは。今回のPBIバーチャルホロン大学公開講座レポートは、能って知ってるKNOW? ~能へのいざない~の模様をお届けいたします。

 

 日本伝統芸能の代表格ともいえる「能」。日本文化への関心の高まりと共に、世界的に注目を集めている日本伝統芸能の華といえましょう。
  一方、我が日本においても、自らの伝統文化への見直しが盛んになりつつある昨今、マスコミを中心とした伝統文化の再確認が盛んに行われるようになってきています。
 とはいえ 今回のPBIバーチャルホロン大学公開講座で取り上げました 「能」 については他の日本文化と一味違い、なかなか知り得る機会が無かったり、敷居の高さを感じてしまったりで、日本人でありながら能について知るチャンスは少なかったといえるのではないでしょうか。 
 今回は、アメリカ等の大学や道場で合気道を教えておられる 
松岡晴夫 先生 が欧米の弟子の方々を連れて日本ツアーで来日された機会を利用致しまして、日本伝統文化を体験して頂く特別能講座を開催することとなりました。

happa.jpg  松岡 晴夫(まつおか はるお) 先 生】

 アメリカL.Aに在住。1983年に大学卒業後、合気道の師であり、後に映画俳優となるスティーブン・セガール氏と共に渡米しL.Aに合気道の道場を開かれました。
  現在は独立、門下生1000人以上、全米に支部姉妹道場を10ヶ所程度お持ちになり、その他にフランス・ロシア・ベルギー・ブラジルなど海外においての出張稽古、セミナーを積極的に行われておられます。

happa.jpg0511_nou_01.jpg 凛として清潔感に溢れ、一見して厳かな印象の能舞台。その能舞台を前に20人ほどのアメリカ人グループと日本人グループが興味津々な面持ちで何が始まるのかと待機している様子。思わずこちらも、なんだかソワソワしてしまいます。 まずは能舞台に演者が現れ挨拶を済ませますと、早々に小鼓の説明を始められました。小鼓の名前、持ち方、叩き方などを手短に説明された後、舞台前に陣取る参加者に 「体験されませんか」 と誘いがかかります。間髪いれずに数人の参加者が手を挙げ、壇上へと誘導されました。

 

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 壇上に上げられた参加者は 「まず礼を」 と則されます。慣れない姿勢での正座、礼はなんだかぎこちなくユーモラスな感さえ漂います。次に小鼓の構え方をレクチャーされ、叩き方のコツをアドバイスされます。初心者には難しい小鼓の音色。 「ポコ」 「ペン」 といった鈍い音が響き、誰しもなかなかうまく鳴らす事が出来なかったなか、驚くべき事が起こりました。壇上の男の子がいきなり「ポン」っと乾いた音で小鼓を鳴らしたのです。会場から思わず洩れる 「ホー…」 といった感嘆の声。指導役の演者からも 「素晴らしい」 の声がかかり、会場からは笑いと拍手が巻き起こりました。照れる男の子。でもその小さな青い目には、確かに誇らしげな光が輝いておりました。

 

 壇上の参加者が席に戻ると会場から質問が上がります。
 「どのようにしたら、音の高低が変わるのですか」 「もち手の紐の力加減を強弱することで、音の高低が変わります」
 簡潔明瞭な回答に 質問されたアメリカ人のみならず、私達日本人も思わず納得です。

happa.jpg0511_nou_03.jpg 続いて舞台上の演者が交代すると、次は能面の説明が始まりました。主に女性系の能面を並べられ、1つ1つ丁寧に説明して頂きました。

小面(こおもて):「小」は小さくかわいいという意味。女性面の代表的な面。純真さを表すあどけない処女の顔で年の若い面。整った髪は若い女性を示す。品位もある。

 萬媚(まんび):小面と比べ髪の毛が乱れているのは年上のしるし。鬼が女性に化けた姿。

 増髪(ますかみ):神が乗り移った女性。文字通り、髪が増すからが由来。

 痩女(やせおんな):地獄に落ちた姿。

 泥眼(でいがん):「海女」の曲に用いられる。海女が龍に殺され、やがて文殊菩薩の導きにより、釈迦の前で男子に変身し成仏する。変成男子願、女人成仏願とも言われている。

 

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 般若(はんにゃ):女の怨霊、恨みを表現する。日本人の蛇信仰により蛇の面からの進化した面と言われている。

 

 ちなみに説明された演者は 「角隠し 花嫁、女には角(つの)がある 故に般若は女なり」 ともおっしゃっておられました。

 生成なまなり):なりかかりともいう、般若になる前の状態を表した怨霊。般若と比べて角が短い。気持ちが剥き出しになる直前の状態。

 など、実際の能面を手で掲げ、外国人にも特徴がわかりやすいように 一つ一つを丁寧に説明しておられました。

happa.jpg0511_nou_05.jpg さらに、参加者に実際に面をつけて歩いてもらうというイベントも行われました。能面をつけると周囲との距離感が失われる、との説明がありましたが、確かに壇上にて能面をつけてもらった参加者は、舞台の隅に立てられた柱との距離感をつかめず、「柱の手前に向かって歩いて下さい」 との指示にも関わらず、随分手前にて歩を止めてしまいました。 説明をして頂いたプロの演者も 「私どもでも柱などの目標物がなければ足元が見えず怖くて歩けない。ですからこのように能舞台の隅には柱が存在するのです」 とおっしゃっておられました。
 その一方でお手本として能面をつけて歩いて頂くと、能舞台の端ギリギリまで迷いなく歩を進められるその技術に、参加者の誰もが圧倒されてしまいます。

 

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 「通常、子供の頃は面をつける事は出来ません。ある程度の経験を積んでから実際に能面をつけて稽古を行うのですが、能面をつけると平衡感覚が失われますので必然的に歩は摺り足(すりあし)となります。決して足を上げて歩いてはならないし、また歩けもしないので 舞台上ではあと一歩、あと一歩と周囲を確認しながら 前に進んでいきます。

 

 ご覧になられる観客の皆様にとっては、舞台全体が一度に見渡せるようなスッキリとした舞台構造が良いのはわかっております。よって同じような伝統文化である相撲の世界では、時代が進むにつれ土俵周りの柱がなくなりましたが、私達、能の世界では前述の理由によって今でも柱を取り去る事が出来ないのです」

happa.jpg0511_nou_07.jpg 会場から 「こちらにある能面で一番古いものはどの時代のものですか」 の質問が上がった際は 「私どもが所有している中で一番古いものは江戸初期のものですので、大体350年程経っておりますでしょうか。材料は檜で、とても持ちが良いですね」 とお答えになられました また、掲げられた能面の角度を変えては 「表情が変わる」 ともおっしゃっておられました。「上を見るようにすると楽しい表情となります。反面、悲しさを表現するときは少しうつむき加減に」 との事です。さらに、話だけではわかり難いとのご好意から実例として墨田川を演じて頂きました。頭にかぶった笠は旅支度、手にした竹笹は子供を失った心情を表しています。 「やぉは~は~、ホゥ~ホゥ~…」 独特の掛け声がかかる中、参加者はシンと水を打ったように能舞台と演者を見つめ、その目前で楽しさを表す仕草や、少し泣く、そして大きく泣く仕草が、実演を踏まえながら次々と説明されてゆきます。

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 再度、会場から質問が上がります。 「舞台で使える面と使えない面の違いはなんですか」 「それは、角度によっての表情の変化の有る無しによります。一言で言えば 「能面の作り込みの違い」 といえましょうか」

 「柱のない舞台ではどのように演じるのですか」 「その場合はマーキングや足の裏の感触など、五感を駆使して演じる事となりますが、とても大変な作業を伴います」

 「なぜマスクを使うようになったのですか」 「マスクを使わずに演じる事もありますが、その時は表情を変えないようにしなければなりません。歴史的には、男役者が女や神、鬼、天狗などを演じる為に面をつけるようになったといわれております。
 ちなみに能の前身として田楽があり、現在のような能形態の完成は600年ほど前ではないかと考えられております」

 「舞台に立つには何年ぐらいの訓練(修行)が必要ですか」 「練習期間は人それぞれですが、私(演者:28歳)は4歳のときから稽古をしておりますので、今年で24年目になります。
  一方、私の父は70歳になりますが、ここまでいって初めて一人前と認められるのではないかと思います。ちなみに父は65年ほど舞台を踏んでおります。
 歌舞伎の世界は世襲ですが、能の世界は 入りたければ誰でも入る事ができますので、その点では比較的自由といえるでしょう。技術的に一通りの基礎を習得するには、一般的に5~10年程度の年月が必要かと思われます」

 「立ち姿勢や転換時に気をつけている事はなんですか」 「男と女では歩行や回転スピードが違いますので動くスピードに気をつけます。能面をつけての感情表現には、立ち振る舞いの訓練が欠かせませんね」

 「やや前屈気味でつま先気味、さらに膝も少し折れている立ち方でしんどくはないですか」 「子供の頃からたしなんでいる姿勢なので、別に苦にはなりません。この姿勢だと腰の高さが一定になるので上半身が揺れないのです。が、強いて言うならば、ゆっくりした動きでは比較的身体がぶれ易くなるので、その場合はややしんどいと感じるときもありますね。
 能の止まりはコマが回りながら静止している状態と同じです。心は動く、身体は動かない。これが理想だと考えております」

happa.jpg0511_nou_08.jpg ここで10分ほどの休憩を挟みましたが、講義再開後、驚く事に舞台上にて役者の着付けの実演が行われました。普段は決して素人が目にすることのない 「能役者の着替え」 です。本職による貴重な舞台裏の立ち振る舞いに、全ての人が熱い視線を注ぎます。

 「能では、一枚目の着物をもって 「裸」 とし、その上に衣装としての着物を着付けてゆきます。故に、半身だけの着付けは裸を表現しております。
  男役の着物では衣装の重量だけで30kgに及ぶケースが存在します。 能の着物の裾は通常よりも巻き込ませるように着付けます。

 

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 また、かつらは本物の女性の髪の毛で作られていますが、この場合、一度でもパーマをかけた女性の髪の毛は使用することはできません。そしてかつら装着ひとつとっても熟練の技が必要とされる世界なのです」

 

 思わず会場から 「衣装代は?」 との質問が飛び 「今回お見せしている衣装は豪華な衣装の部類に属します。おおよそですが 1000万円ほどになります」 との返答がなされました。その提示された金額に 「10万ドル!! 」 と質問者は目を丸くし、同時にため息をついていらっしゃいました。

 

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 この後、実演として 「羽衣 (漁夫の白龍が、三保の松原で松にかかる天女の衣をみつけます。持ち帰ろうとすると、天女が現れ、 「その羽衣がないと天に帰れない。返して欲しい」 と嘆き悲しみます。
  哀れな天女の様に心打たれた白龍は、羽衣を返す代わりに天女の舞を所望すると、天女は喜んでそれに応じます。天女は天上界の様子を語り、三保の松原の景色を賞でながら、 「序の舞と破の舞」を舞いながら、霞の彼方に去ってゆきます)」 と 「
一角千人 (天竺の山中に住む一角仙人は、龍神と争い、彼らを岩屋に閉じこめてしまったので、ついに雨が降らなくなってしまう。
  そこで帝王は美しい施陀夫人をさしむける。その色香にひかれた仙人は勧められるままに酒を呑み、つられて舞を舞ううちに酔いつぶれてしまう。仙人の神通力は失せ、岩屋をやぶって現れた龍神が大雨を降らせてくれた)」 の一部を見せて頂く事ができました。

 

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 この素晴らしく魅力的な演目が放つ伝統芸能の奥深さに、講義に参加された外国人はもちろんのこと、私達日本人参加者も大いに心打たれ感動いたしました。

 

 そしてこの能舞台と対峙した2時間は、先祖伝来大切に受け継ぎ育んできた日本文化の真髄にたっぷりと浸ることのできる、貴重且つ密度の濃い体験だったと各参加者の脳裏に記憶されたことでしょう。

 

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 ホロンPBIでは忙しい毎日の中では中々感じることの出来ないような「感動」や「体験」を皆様に味わっていただけるよう、各界のさまざまな先生のお話をホロンPBI主催の「 上質人生大学公開講座 」を中心に今後も充実したラインナップで展開してゆきたいと考えております。

 気軽な雰囲気の中で本当に気持ちの良い「体験」や「知識」に触れ合うチャンスなんてそうそうあるものではないですよね。これを機会に好奇心一杯の気持ちを鞄に詰めて、会場まで足をお運び頂ければ幸いと存じます。

 スタッフ一同、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

 それでは次回のホロンPBI主催の「 上質人生大学公開講座 」を楽しみにしていて下さいね。楽しいこと、不思議なこと、そしてあなたの人生にちょっとしたエッセンスを加えることが出来ること請け合いです。 どうぞご期待下さい。


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