上質人生大学

特別講座レポート

2005年5月
武術と陰陽道~武術対談・実演講座~
尾畑 雁多 先生・河野 智聖 先生

 今回のバーチャルホロン大学公開講座は、尾畑 雁多(をばた かりんど)先生、河野 智聖(こうの ちせい)先生による「武術と陰陽道」をお送り致します。

happa.jpg 昨今何かと話題の「陰陽師」

 かつて播磨の国には「播磨物部氏」と呼ばれる産鉄・祭祀を司る民が住んでいました。その民が一族の大切なものを伝承するに至り、いつしか播磨陰陽師と呼ばれるようになったのです。そして歴史は推移し、現代における播磨陰陽師の末裔が、今回お話し下さった尾畑雁多先生という訳なのです。
 「華やかし歴史の影に陰陽師あり…」。
 綿々と受け継がれし秘儀を裏付ける密伝の数々は、古(いにしえ)の彼方よりもたらされた、紛う事なき我ら日本人の姿そのものなのかもしれません。

 一方、武術・芸能の歴史において、高度且つ精妙な身体感覚を磨き上げて来たのも我ら日本人の特徴です。残念ながら現代社会においては、先祖代々受け継がれし「生きる為の立ち振る舞い」が風化し始めてきていると言わざるを得ません。
  同じく今回お話下さった河野先生はこうした状況を踏まえた上で日本古来の身体感覚を甦らせ、より良い精神面の獲得の為に日本古来の「カラダ」を取り戻すご指導をされています。

 以上、古来より伝わる日本文化伝承の一端を担う尾畑先生・河野先生が、昨今の日本古来の伝統を今こそ見直そうといった時代の息吹に導かれるように、バーチャルホロン大学公開講座にて「武術と陰陽道」をテーマに対談を行って下さいました。
 日本人とは、といった根源的なテーマに繋がるかもしれない今回のお話は、私達のアイデンティティーを確認するヒントを与えてくれそうですね。
  
  では今回の講座を担当して頂く先生方の略歴を申し上げておくことに致しましょう。

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尾畑 雁多(おばた かりんど) 先生】 

  1960年、赤穂浪士の子孫としてこの世に生をうける。 
  先祖代々、赤穂武士の間に伝わっていた古式陰陽道を伝承する播磨陰陽師の末裔として、幼い頃より様々な霊体験を通して、一子相伝の秘術を習得する。古式陰陽道の伝承は、歴史的に「謎の集団」として知られる播磨陰陽師たちのもつ呪術・霊術から武術・戦略や武家の風習にいたるまでの多岐にわたるが、特に当家の伝承は、古くは物部の祭祀に起因する夢操り・夢伝え等の、独特な夢の世界に関する伝承と、その世界から現実に影響を与え変更すると伝わるノウハウを有する。

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河野 智聖(こうの ちせい)先生

 1961年、兵庫県生まれ。
 中学時代、義心館山田治義館長の元で空手を始める。心拳塾清水伯凰塾長の元で心拳を学び指導員となる、また竜明広老師から北派少林拳総合源流の伝授を受ける。同時に橋本操体、野口整体といった身体調整術を学ぶ。
 以来、身体の操作を有効的に活用し、稽古する事で健康になり、年を重ねる事に技術を増してゆける事を目的に武術と整体を融合させた「心道」を発足、東京、大阪、名古屋で稽古会を主催する。






happa.jpg0505_obatakouno_1.jpg尾畑先生河野先生 : みなさんこんにちは。

河野先生 : 私は長年、武術と整体の世界に身を置いてきました。しかし「武術」は身を壊し、「整体」は身を直すといった矛盾に幾度となく悩まされてきました。
  もっとも、その経験があったからこそ武術と整体を融合させた「心道」を発足させる事が出来たのですが…(笑)

尾畑先生 : 私は陰陽師の末裔ですが、同じ陰陽師でも私の属する「神祓(かんばら)系」は武術に強い系統なので、私も小さい頃から武術には親しんで参りました。
 早速ですが、私の系統の武術は他の武道とは少し意味合いが違っているのではないかと普段より感じております。なぜならば「闘うときになぜ相手と手を組むか」ということに対する答えが「相手に印を組ませないため」となる点などが挙げられるからです。
  このように武力だけでなく霊力も含めて相手の息の根を止めるための技術が発達し、そして伝承されて来たのが、我が「神祓系」の武術なのです。

0505_obatakouno_5.jpg河野先生 : なるほど。一言で武術といっても、種類は星の数ほどありますからね。しかも常に進化している。例えば空手の元々の構えは顔が空く姿勢なので、空手とは違う武術と戦うには都合が悪い。つまり非合理的だったのです。それを補うためにいつしかボクシングの動きを取り入れるようになり、現在では構えの時点で顔をガードするように変わりました。


 でも表面上が変わっても基本が変わる事はありません。大切なのはなんといっても「呼吸」。具体的には、相手と対峙した時に息を吐けば相手は逃げ、逆に吸えば相手は寄ってくる。まずはこういった基本的な要素を身体に叩き込んでおかないと折角の応用も活きてはきませんね。

0505_obatakouno_6.jpg尾畑先生 : 基本といえば、力の流れを掴む事も非常に大切です。例えば、腕に力を入れると相手は動けないので、腕を掴んだらすぐさま相手の顔と手を繋いだ線に自分自身を移動させるのです。人間は立った状態では自分の胸が見えず死角となるので、相手の胸は必然的にガラ空きです。そこで顎(あご)の下を的確に打ち抜くのです。その際、相手のつま先を踏みつつ踏み込めば相手の動きを封じる事も出来ます。

 陰陽師・神祓系に伝わる武術は、少なくとも1400年の昔より伝承が始まったとされ、一族が戦国時代を経て尚生き抜くための技術として繰り返し練り上げられてきた「技」故に、とても実戦向きに考えられております。

0505_obatakouno_7.jpg 例えば、敵を刀で切り捨てる際は相手の血しぶきを浴びないように切らなければなりませんが(実戦(戦場)では敵が複数である場合がほとんどなので、次を見据えた動きをとらねば即、我が身に「死」が訪れる。その為には、例え一瞬でも相手の血しぶきを浴びるなどして自分の動きを止める訳にはいかない)、そのためにはどうすればよいか。(ここで会場内の男性を手元に呼んで尾畑先生の目の前で木刀を握らせます) このような体勢を取れば自分に武器はなくとも相手の刀で相手の首筋を切り、続けて腹を切ることもできます。つまり相手の息の根を完全に止める事が出来るのです(その流れるような動きに会場内から低いどよめきが上がりました)。

河野先生 : では私も(笑)。身体の動かし方として、マリオネットのように上からつられたようなイメージで動かすと相手に動きを封じられます(ここで先程の男性に河野先生の腕を掴んでもらう)。しかし、文楽のように下から持ち上げるように動かせばこのように相手を払いのける事が出来ます。
(男性の腕を払いのけた後、男性との間合いを20cmほどに詰めて)更に肩甲骨を自由に動かす事が出来ればこのような狭い間合いでも相手を切る事も出来るのです(その間合いのまま手刀で男性の胸元を切る。その仕草はまるで本当に男性を切ったかのような動きでした)。この場合身体を回転させると自分の身体が相手に当たってしまうので、あくまでも上半身のしなりが大切となります。

happa.jpg0505_obatakouno_2.jpg 実は本日が初めての顔合わせだった尾畑先生と河野先生ですが、初めて会ったとは思えぬお二人の息の合った進行ぶりに会場内はグングン引き込まれてゆきます。 さて、ここまで一気に話してこられたお二人は一息つくと、河野先生の提案により尾畑先生に膝行(しっこう)の実演をして頂く事になりました。

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河野先生 : さて、ここで尾畑先生に膝行を見せて頂くことに致しましょう。ちなみに膝行とは時代劇などでたまに見かけますが、正座のような格好で移動する作法の一つです。

尾畑先生 : ハイ、では膝行を行います。そもそも膝行は殿中における最重要な作法と見られ、殿様の前で膝行が出来なければ切られて当然の立ち振る舞いでもありました。
 まず、3本指をついて頭を下げます。その姿勢のままこのように着物の裾を踏まないように足を運びながら移動します。この動作は殿様の前で礼を尽くしながらも、とっさの場合には敵を切る事も出来る武士として非常に大切な動きなのです。
 また、先程から「切る」と何度も申し上げておりますが、この切る動作においても思慮すべき点が色々と存在します。大まかにいえば刀を振る腕や身体の筋肉の使い方についてなのですが、大切な事は表面に近い筋肉を鍛えてもあまり意味がないという点です。
  鍛えるべきは深い箇所の筋肉であり、そのための鍛錬として普段からゆっくりと刀を振る練習を行うのです。

河野先生 : そうですね。筋肉もそうですが、手首が固くなるのもやはりうまくありませんね。例えばお酒を酌する場面を想像してみて下さい。今の人は肘を上げて酌を行うので、最後の1滴を注ぐ際には肩までもが上がってしまいます。

  一方、着物を着ていた昔の人は袖が邪魔にならないようにと、肘を反対の手で添えて酌を行っておりました。こうすると手首だけが返ります。 これは武術に応用できる動きなのですが、相手に腕を掴まれても手首だけを返すようにすれば相手をひっくり返すことが出来るのです。
 西洋は筋肉を「足し算」で考えますが、日本的思想では余計なモノを削ぐ「引き算」の考え方で身体の動きを研ぎ澄ましてゆくのですね。

尾畑先生 : 余計な力を削ぐという点では握り方も重要です。具体的には小指の使い方がポイントなんですが、イメージとして赤ちゃんの握り方ですね。赤ちゃんの握りはなかなか外せない。でも10歳ぐらいになると動きに逆らう筋肉の力がついてくるので、逆に外し易くなってくる。

0505_obatakouno_8.jpg河野先生 : そのイメージを応用すると面白い事が起きてきます。相手を赤ちゃんだと思い優しく柔らかく押すと相手は倒れ、且つ起き上がれなくなってしまう。しかし、実年齢をイメージして押せば逆に押し返されてしまうんです。つまり武術はコミュニケーションという訳なんですね。

 「武は愛なり」 相手に興味があるうちは相手が手を掴み続けてくれるものなんです。愛する事と壊す事は同じ事。質が違うだけで根本は同じなんです。まぁ本質的には、恋愛と同じかもしれませんね(笑)

尾畑先生 : コミュニケーションという点では場が乱れるという事もよくないですね。江戸時代では赤ちゃんは家族の気で守ると教えていました。家族の中の誰かの気が滞れば、その家は不幸になると考えられていたのです。
 場を整える為にも呼吸は大切です。呼吸を整える事は場を整える事に繋がりますし、さらに長い息は長生きにも繋がるのです。

河野先生 : 呼吸に目を向けるならば腰の重要性も避けては通れませんね。腰椎は全部で5本ありますが、それぞれの動きに特徴があります。
  その中において腰椎4番は下への動きに良く反応しますが、畳で暮らす動きがベースとなっている日本人の身体の使い方ではこの4番の動きがとても大切といえるのです。

0505_obatakouno_9.jpg尾畑先生 : そうですね。腰椎4番は丹田の位置でもあります。ここがしっかりしていなければ人間は上手く動く事が出来ません。逆にここがしっかりしていれば、両側から2人同時に襲われても0.5秒間隔で両者にそれぞれ技を掛け、撃退することも可能となります。

 日本人は口伝で伝承を伝えてきたので、神道をはじめとして教義というモノが存在しません。しいていえば神様の立て方やお参りの仕方で先祖からの魂が続いていると考えるのです。 つまり立ち振る舞いですね。
  それによって我々日本人は霊的なモノとの会話、それは幽霊などではなく自然の中で宇宙を司る、不思議で大きな力として感じ続けてこられたのです。

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 ここで再度一息つくと、一人の女性から質問が挙がりました。

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女性 : 「私はよく痴漢に会うのですが、先程の「場」の話からするとどのような事に気をつければいいのでしょうか?」

0505_obatakouno_4.jpg尾畑先生 : 伝承によれば、そのような場所に近寄らないのが一番、とありますが…(笑)

 自分の大切なモノ(命など)を守りたければ、何処であろうが、何処にいようがしっかりと息をする事。そうすれば襲われず、また、万一の時も対処することが出来ます。古文書にはひたすらそう書かれております。
 人間の脳の容量は決まっているので、処理できる能力にはおのずと限りがあります。伝承によれば心の中では悪いが強く良いを食い潰すとあります。
  皆さんもご存知の通り、良いと悪いは陰陽の関係ですので、良い事を強く思わねばなかなか良い事は起こらない。そういう意味で身の回りの出来事は思ったようにしかならないし、大切なモノは探さねば見えないといえるのです。

河野先生 : なるほど。陰陽道とは日本の伝統的心理学だったんですね。ハハハ(会場・笑)

happa.jpg ホロンPBIでは忙しい毎日の中では中々感じることの出来ないような「感動」や「体験」を皆様に味わっていただけるよう、各界のさまざまな先生のお話をホロンPBI主催の「上質人生大学公開講座」を中心に今後も充実したラインナップで展開してゆきたいと考えております。

 気軽な雰囲気の中で本当に気持ちの良い「体験」や「知識」に触れ合うチャンスなんてそうそうあるものではないですよね。これを機会に好奇心一杯の気持ちを鞄に詰めて、会場まで足をお運び頂ければ幸いと存じます。

 スタッフ一同、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

 それでは次回のホロンPBI主催の「上質人生大学公開講座」を楽しみにしていて下さいね。楽しいこと、不思議なこと、そしてあなたの人生にちょっとしたエッセンスを加えることが出来ること請け合いです。 どうぞご期待下さい。


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