2004年6月
ジパングボディシステムが紐解く「日本人力」
河野 智聖先生
今回のバーチャルホロン大学公開講座は『ジパングボディシステムが紐解く「日本人力」』をお届け致します。
古来より日本人は武術・芸能の歴史の中で、現代人が想像も出来ないほど高度にして精妙な身体感覚を磨き上げて来ました。一方、現代を生きる我々の社会では、先祖代々受け継がれてきた「生きる為の立ち振る舞い」が風化しつつあります。
身体・精神両面の一体性から考えて、私たちが伝統的な立ち振る舞いの放棄から発生する様々な決済をイメージする事は、現代を生きる私たちが抱える問題を深く掘り下げる点で有意義だと思われます。例えば、近年身の回りで見聞きするようになった「今までに類を見ない事件の数々」の解決法の1つとしても、日本古来の身体感覚を甦らせ、より良い精神面の獲得に到るという視点は役立ちはしないでしょうか。
上記の素朴な疑問点を踏まえた上で、今回のバーチャルホロン大学公開講座では、日本古来の「カラダ」を取り戻す「コツ」をテーマに取り上げてみることにしました。
【 河野 智聖(こうの ちせい) 先生 】
1961年、兵庫県生まれ。
中学時代、義心館山田治義館長の元で空手を始める。心拳塾清水伯凰塾長の元で心拳を学び指導員となる、また竜明広老師から北派少林拳総合源流の伝授を受ける。同時に橋本操体、野口整体といった身体調整術を学ぶ。
身体の操作を有効的に活用し、稽古する事で健康になり、年を重ねる事に技術を増してゆける事を目的に武術と整体を融合させた「心道」を発足、東京、大阪、名古屋で稽古会を主催している。
「現代の日本人は「立つ」「座る」といった基本動作の出来ない危機的状況にあります」
講座冒頭、担当して頂く河野先生の口から刺激的な言葉が飛び出します
「日本人は高温多湿の日本に暮らす専門家です。ですから我々日本人にとって「梅雨をいかに過ごすか」はとても大切なテーマです。日々、食べ物を腐らせず、高温多湿の環境に負けない丈夫な身体を作り上げるにはどうすれば良いのか、という点に日本人は腐心し、生き抜く為の知恵を編み出し、継承してきました。
そういった意味では、現在の街中に溢れるファーストフードのような食べ物で、先祖伝来伝えられてきた身体を練り上げていくのは、不可能に近いと言えるかも知れません」
「身体の動きを発揮する一番の焦点として背骨が存在します。身体を立たせる為の大黒柱的存在である背骨は上から順に「頚椎(首の骨):7本」「胸椎(首から下、腰より上):12本」「腰椎(腰部):5本」の組み合わせで構成されていますが、人種によってそれぞれ動きに個性のある、大変おもしろい特徴が見受けられます」
「二足歩行を前提とする人体の構造上、腰椎には姿勢による違いがハッキリと現れるのが特徴です。(上から順に)腰椎1番は上に向かう動き、腰椎2番は左右の動き、腰椎3番は螺旋(らせん)、腰椎4番は下向き、腰椎5番は前後の動きにそれぞれ反応しております。ちなみに腰椎1番の動きはアングロサクソン系の人によく見受けられ、女性ではハイヒール、男性ではネクタイを着用する際に威力を発揮します。
腰椎2番の動きには消化器の働きが関係しています。従って、ここの動きに関係する人種としては中国人やフランス人など、食がよく育つ人々が対象となります。腰椎3番は感情と関係していますので韓国の方に、腰椎5番は前後の動きが細かいリズムを刻むのに適していますので黒人の方々に焦点が集まっている点が観察できます。
さて腰椎4番ですが、ここは身体を縮める動きと関係しますので、我々日本人に深く関係していると言えるでしょう。畳での生活をはじめ、寝る時も地に近く、下駄、草履を愛し、着物の帯の位置から肩を落とす姿勢まで、それぞれに腰椎4番の動きが関わっているのです。
ちなみに現在の日本人には腰椎4番への力の入れ方がわからない方が非常に多くなっていると思われます。その為に深夜のコンビニ前などで見受けられる「地べたにお尻をつけて座る若者達」が出現したのでしょう。
彼らは腰に力が入らないが故に、文字通り「腰まで落ちてしまっている」のです」
「「あいうえお」は腰で発声しますが、「ABC」は首で発声します。ここにも腰椎4番の下向きの動きと、腰椎1番の上向きの動きの特徴が現れているように思われます。
同じような観点から両者の理想とする体型を考えてみましょう。
日本人はおにぎり型の三角形の体型を理想とします。一方、西洋人は逆三角形の身体を求めます。これも身体が求める動きの違いをベースとする典型例だと言えるでしょう」
ここで河野先生は、参加者の1人を壇上に呼び、実際に腰椎にかかる力の違いで人間の動きが変わってしまう実験を行ってくれました。
まず、壇上の方にジャンプしてもらい、その様子を会場の方々に観察してもらいます。
「(参加者の腰椎1番に手を当てて)次に、このように特定の箇所に意識をもっていくとどのような事が起こるでしょう?ではもう一度飛んで頂けますか?」
すると、会場からは低いどよめきが沸き起こりました。ジャンプの仕方が明らかにスムーズに変化したのです。被験者本人も驚いた様子で「すごく軽く飛べました」と興奮気味におっしゃいました…
「次に左右の動きを見てもらいましょう」
こうおっしゃった河野先生は、腰椎2番に手を当てた上で被験者に左右に身体を振るように指示されました。すると、やはり会場からどよめきが起こります。
続いて腰椎3番に手を当ててのねじれの動作では、その動きの違いに会場から「すごい…」の声が漏れ始めます。
腰椎4番に手を当てると、被験者は両手を振って会場を歩く事が出来ず、逆に腰椎5番に手を当てると大きく手を振ってしまう姿には会場から驚きを超えた談笑が起き、「腰椎5番に意識をもっていく歩き方は、キャリアウーマン風に見ます」との声も聞かれました。
「手を当てる位置で身長まで変わりますよ」
「えっ!?」 参加者の声を待つまでもなく、会場に驚きの反応を演出してゆく河野先生はまるでマジシャンのように振舞います。
被験者の腰椎1番に手を当てた河野先生は「今の見えている(室内の景色の)位置をよく覚えて下さいね」と話し掛けると、スッと手を腰椎4番に移動させました。「あっ…!」被験者の方が間髪入れずに驚きの声をあげます。
「目線が下がった…」
「そうなんです。腰椎1番に意識を持った状態から腰椎4番に意識を持っていくと、身体の力の向きが上から下に変わるので、文字通り「目線が下がる」のです。
同じような例では、頭痛時にこめかみに手を持っていく仕草があります。あれは疲れて開き落ちた頭蓋骨を、縮めて上にあげようとする為の動作なのです。ちなみに受験生のねじりハチマキですが、あれは良く出来ていますよねぇ(笑)。本当に理に適った話です」
「おたふく風邪や生理時にはお尻が上に上がるのですが、これは腰(換骨)の両脇上部と仙骨に位置する「呼吸三点」と呼ばれる箇所が刺激されるからです。お尻が上がると胸が開き、呼吸が楽になる恩恵が得られます。文字通り「呼吸は腰でする」と言えますね。
人体における腰の重要性は今更申し上げるまでもありませんが、腰の注目すべき点の一つとして「体型」を挙げておきたいと思います。
この場合、中毒の方やお年よりの身体に顕著に現れる現象を指してお話しますが、両者とも腰が落ちているので、傍から見れば同じような体型のように見えるのです。もっとも、最近は若い人の腰が落ち、胸も縮んできているので「若年層のお年寄り化」が目立つようになってきました。
このような体型で毎日を過ごしていると、夢も希望も持てなくなってくるので、個人・社会両面にとって要注意事項です」
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「さて、ここで…」とおっしゃる河野先生の口調が少し変化しました。
「人間の身体について少し考えて頂きましょう。(会場に向かって)人間の足は何本でしょうか?そうですね、2本です。なるほど冷静に考えてみて「身体を立たせる」という目的の為には、足が2本よりも3本あった方が、より(人間の身体が)安定するとは思いませんか?(会場を見回し、語気を強めながら)その3本目の足と成り得るものが身体の重心~すなわち中心軸と呼ばれるものなのです。この身体の重心軸が安定すればするほど人間の身体そのものが安定してゆくのです」
「では、この中心軸を安定させるのはどうすればいいのでしょうか?その鍵は腰紐(こしひも)にあります。着物にも見受けられる腰紐で腰自体を締めてしまうのです。そうすればフラツキがなくなり身体はとても安定します。
ちなみに医療やスポーツの現場で使用される腰痛バンドは、昔の日本人の知恵をヒントに考案されたものですが、腰紐も締め方によって効果に差が出る点を忘れてはなりません。不思議な事に腰紐は、左側で締める方がより中心軸を安定させる効果が得られるのです」 と言いながら腰紐の実演をされる河野先生でしたが、実演は腰紐だけにはとどまりませんでした。
「腰紐と同じように、古来より日本人が伝えてきたものに「襷(タスキ)」「鉢巻(ハチマキ)」があります。
襷は上半身の後ろで紐を交差させる形で身体を締めるので「胸を開いた良い姿勢」を取ることが出来ます。この姿勢は傍から見ても堂々として見えるのでとっても良いのですが、最近問題だと思えるものに、女性の「寄せて上げるブラジャー」の存在があります。
これは女性の上半身前部を締める形になりますので、両肩が前に来る「猫背」の姿勢になってしまいます。この姿勢を一日中続ける事は感受性にも影響し、しばしば暗く沈んだ思考に陥ると考えられます」
「次に鉢巻について考察してみたいと思います。
鉢巻をこのように斜め前で結ぶと、頭痛をはじめとする病気の際の締め方となります。後ろで結んだ場合は、手を上げ易くなるので討ち入りや合戦時に、前で結べば前後の動きを促すので掃除向き、横で結ぶと左右に動きやすくなるので料理人の結び方となります」
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「これらのケースから日本人が「自らの姿勢」に一体何を求めてきたのかが良く分かるのですが、私たちの祖先は腰紐で骨盤を、襷で肩甲骨を、鉢巻で後頭骨をそれぞれ寄せて上げようとしていたのです。 こうする事により、例えば後ろの気配に自然と身体が反応する「細かいところが見えてくる身体」になり、更に練り上げる事によって次第に「相手の気持ちがわかる人」に変化してゆくのです。
一昔前までは「1聞けば10わかる」のが当たり前だった日本人が、いつの間にか「1から10まで言わなければ相手の気持ちがわからない」マニュアル必須人種になってしまったのも「姿勢」と大いに関係する話だと考えられるのです。
よく、欧米人から「日本人は気持ちを話さないので何を考えているかわからない」などと評されるケースがありますが、本来の日本人の立場から言わせてもらえば「話す事なく、相手の傍に居るだけで意思の疎通が出来るのは当たり前」であり、逆に「あなた方は、言葉にしなければ向かい合った相手の気持ちがわからないのですか」と質問したくなるのです。
個人的には「以心伝心こそ日本が世界に誇るべき美徳」だと思っています。しかし現代の日本人には、その心が継承されていないように見受けられ、とても残念に思うのです…」
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ここで一息ついた河野先生は、会場の皆さんに紐を配り、実際に「鉢巻」「襷」「腰紐」を体験して頂いた上で代表的な身のこなし例を述べて下さいました。
「習字は文鎮で和紙を押さえているにも拘らず、さらに左手で和紙を抑えます。同じくそろばんも左手でそろばんを固定します。ご飯を食べる時もお茶碗を左手でしっかりと持ちます(右ききの場合)。
これらは全て「腰の入る姿勢」を保持するのに役立つのです。同じように姿勢を保持する姿勢として鉛筆やお箸の持ち方も挙げる事が出来ます。
実際に試してみると良く分かりますが、 鉛筆やお箸は根元を持つと前に倒れるような座り姿勢になってしまいます。しかし、筆を持つように上方を持つと背筋が伸びてくるので、やはりお箸の持ち方ひとつでもおろそかにする事は出来ませんね」
「かつて侍は左腰に刀を差していましたが、これは右手で左腰を持つと「座り易く、ねじり難い」身体の使い方になるので、刀を抜くと同時に臨戦態勢をとる事が出来たからです。
反対に右手で左腰を持つとねじり易くなるのですが、手のひらをどちら側に向けるかで、さらに動き易さが変化します。例えば左腰に右の手のひらをつける場合と、甲をつける場合とでは上半身の左右への振り易さが逆になるのです」
「また、右手の親指を握ってもらうと早口言葉が言い易くなる傾向があり、左手の親指には瞑想を促す働きもあります。この事から脳溢血の方がリハビリ時に、右手親指を握ってもらいながら話す努力をすると、握らない場合と比較して回復力が強くなるケースが確認されています。不思議な話しですが、指は言葉と関係しているのです」
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「姿勢の悪化は頭後部の付け根を硬くします。いわゆる「首や肩が凝る状態」ですが、こうなると、脳内の考え続ける思考回路の優先順位が高くなり、激しく妄想し、さらには誹謗中傷を述べてしまうケースも見受けられるようになります。
手足への動作指示は、頭(脳)から背骨を経由して末端の細胞に伝えられます。その根元(首や肩)で伝達が阻害されれば、当然身体の動きは低下し、頭(脳)内で処理しようとし始めるのは当然の成り行きでしょう。背骨の担う働きには想像以上に重要なものがあり、その状態(姿勢)をいかに保つかという事は、己の潜在的能力を発揮させる点においても大変重要な課題なのです。
そういった意味では、日本人は身体の使い方に極めて造詣が深かったと言えます。そろばんなどは身体を使って行う計算方法だと言えますし、良い姿勢は足の親指に力が集まる立ち姿勢が基本なので、親指のみ分離させた足袋を考案し愛用してきました。そして身体を適度に締め付け、正しい動作を無理なく身に付けさせる世界に類を見ない着物文化をも作り上げました。
他にも、相手の 目線の変化にも気を配り、話しながら左上を見る場合は正しい事を、右上を見る場合は嘘を述べていると判断する術も日本人は持っていたのです」
今回の講義の締めくくりとして、河野先生は次のように述べられました。
「このような立ち振る舞いをはじめとする伝統的な「身体と心の使い方」を忘れつつある日本人は、今までには想像もつかなかったような個人的・社会的行動に戸惑い、大変な試練に直面するようになってしまいました。
さらに我々が生きる現代では、身体で感じるべき意識までも頭に上げつつ、混沌を旨とする日常が繰り返されています。 しかしこのような時代の節目だからこそ、先人から継承されてきた知恵を思い出し、応用し、役立たせる意義があるのではないでしょうか。
是非とも皆さん、腹を据え、気をしっかり持って、これから訪れる荒波の時代をしっかりと生きてゆきましょう」
気軽な雰囲気の中で本当に気持ちの良い「体験」や「知識」に触れ合うチャンスなんてそうそうあるものではないですよね。これを機会に好奇心一杯の気持ちを鞄に詰めて、会場まで足をお運び頂ければ幸いと存じます。
スタッフ一同、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
それでは次回のホロンPBI主催の「 上質人生大学公開講座 」を楽しみにしていて下さいね。楽しいこと、不思議なこと、そしてあなたの人生にちょっとしたエッセンスを加えることが出来ること請け合いです。 どうぞご期待下さい。







